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猫の重症筋無力症


猫ちゃんと獣医師

猫の重症筋無力症とは?

重症筋無力症(Myasthenia Gravis)とは、神経筋接合部における自己免疫疾患です。この病気は、神経から筋肉への信号伝達が障害されることで、筋肉の働きが著しく低下します。具体的には、神経が筋肉に対して正しい信号を送れなくなるため、筋肉の収縮がうまくいかなくなります。この結果、筋力が低下し、特定の筋肉が使えなくなる状況が発生します。重症筋無力症は、神経から筋肉への信号伝達が妨げられることで、筋肉が正常に機能しなくなる疾患です。この病気にかかると、猫は運動や食事の際に筋力低下を感じるようになります。猫にとってはまれな病気ですが、アビシニアンやソマリといった特定の品種では、発症するリスクがやや高いとされています。


猫の重症筋無力症:原因とメカニズム

猫の重症筋無力症は、神経から筋肉への信号伝達が障害されることで、筋肉の正常な動きができなくなる病気です。アセチルコリンという化学物質が神経と筋肉の接合部にある受容体に結合することで、筋肉が収縮します。この病気は、アセチルコリン受容体の機能が低下することで、筋肉への信号がうまく伝わらなくなり、筋力低下を引き起こします。


先天性重症筋無力症

先天性の重症筋無力症は、生まれつきアセチルコリン受容体が欠損しているか、正常に機能しないことが原因で発症します。3~8週齢の子猫で最初に症状が見られることが多く、猫では非常にまれですが、スフィンクスやシャム猫などで報告があります。先天性の重症筋無力症は、遺伝的な要因が関与しているため、予防が難しい病気です。


後天性重症筋無力症

後天性の重症筋無力症は、免疫系の異常によって引き起こされます。自己免疫疾患として、自分の体のアセチルコリン受容体を攻撃する抗体が作られてしまうことが原因です。この自己免疫反応により、神経からの信号が筋肉に正しく伝わらなくなります。後天性の重症筋無力症には特発性(原因不明)のものと、胸腺腫や骨肉腫などの腫瘍に伴って発症するもの(腫瘍随伴症候群)があります。特に猫では、腫瘍に関連する免疫異常が原因で発症するケースが比較的多いとされています。



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猫が重症筋無力症にかかった場合の症状と影響

猫の重症筋無力症は、神経から筋肉への信号伝達がうまくいかないために、筋肉に力が入らなくなる病気です。この病気にかかった猫には、いくつかの特徴的な症状が見られ、日常生活に大きな支障をきたします。


筋力の低下

重症筋無力症の猫は、筋肉に力が入りづらくなるため、歩行がふらつくようになります。わずかな運動で疲労が顕著になり、すぐに座り込んだり横たわったりします。休息を取ると一時的に筋力が回復し、再び立ち上がって歩けるようになりますが、病状が重篤化すると、立ち上がることさえ困難になり、横になったまま顔を上げるのも難しくなることがあります。


顔の表情の変化

顔面の筋肉にも力が入らなくなるため、猫はまばたきができなくなったり、まぶたが垂れ下がって眠そうな表情になることがあります。これにより、通常時の表情とは大きく異なる印象を受けるでしょう。


食事や呼吸への影響

重症筋無力症は、喉や食道の筋肉の動きにも影響を及ぼします。その結果、よだれが多くなり、食べ物をうまく飲み込めなくなる嚥下障害が発生します。さらに、巨大食道症を併発することもあり、この状態になると、食べ物を胃まで正常に運ぶことが難しくなります。これが原因で吐き戻しや誤嚥が起こりやすくなり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。誤嚥性肺炎は、発熱や呼吸困難などの深刻な症状を伴います。巨大食道症は犬に多く見られますが、猫では比較的まれです。

また、呼吸を補助する筋肉が影響を受けることで、呼吸困難の症状が現れることもあります。これは猫にとって非常に危険な状態であり、早急な対処が必要です。


重症筋無力症が疑われる場合の検査方法

猫の重症筋無力症の診断には、いくつかの専門的な検査が行われます。これらの検査は、病気の特定と適切な治療を開始するために不可欠です。


アセチルコリン受容体抗体の測定

後天性重症筋無力症の主な原因は、体内でアセチルコリン受容体に対する抗体が生成されることです。この抗体が筋肉の正常な働きを阻害します。血液検査でこの抗体の存在を確認することで、重症筋無力症の診断を行います。ただし、この検査結果が出るまでには時間がかかることが多いため、迅速な診断が必要な場合や抗体が関与しない先天性重症筋無力症が疑われる場合には、他の検査方法を併用します。


テンシロンテスト

テンシロンテストは、重症筋無力症の診断をサポートするために行われる検査です。テンシロン(エドロフォニウム塩酸塩)は、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害します。これにより、アセチルコリンの効果が持続しやすくなり、筋肉の受容体と結合する機会が増加します。症状が見られる猫にテンシロンを静脈注射し、一時的な症状の改善が見られた場合、重症筋無力症の可能性が高くなります。しかし、猫の場合、テンシロンに対する反応がわかりにくいことも多いため、この検査だけで確定診断を行うことは難しいです。


筋電図検査と筋生検

テンシロンテストの結果が明確でない場合や、さらに詳細な情報が必要な場合には、筋電図検査や筋生検を行います。筋電図検査では、筋肉の電気的活動を測定し、神経から筋肉への信号伝達の異常を確認します。筋生検では、筋肉の一部を採取して詳細に調べます。これにより、筋肉の状態や異常の有無を直接確認できます。


画像検査とその他の血液検査

さらに、一般的な血液検査やX線検査を行い、胸腺腫などの腫瘍の有無や巨大食道症の発症、誤嚥性肺炎の併発がないかどうかを調べます。これらの検査は、重症筋無力症に関連する合併症や他の潜在的な健康問題を確認するために重要です。


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猫の重症筋無力症の治療方法

重症筋無力症と診断された猫には、病状を管理し、生活の質を向上させるためのさまざまな治療法が用いられます。以下は、その主な治療方法です。



抗コリンエステラーゼ薬の使用

神経から筋肉に信号を伝えるアセチルコリンは、放出された後すぐにコリンエステラーゼという酵素によって分解されます。抗コリンエステラーゼ薬は、このコリンエステラーゼの働きを抑制し、アセチルコリンがより長く作用するようにします。これにより、筋肉のアセチルコリン受容体と結びつく機会が増え、筋力の低下などの症状が改善されます。


免疫抑制剤の投与

後天性の重症筋無力症は、免疫系の異常が原因で発症します。抗コリンエステラーゼ薬だけでは症状の改善が難しい場合、免疫抑制剤やステロイド剤を併用します。これらの薬剤は、免疫反応を抑えることでアセチルコリン受容体への攻撃を減少させ、症状の軽減に役立ちます。


その他の治療法

特定の状況に応じて、以下のような追加の治療が行われることがあります。

外科手術 腫瘍に関連して発症した重症筋無力症の場合、腫瘍の切除を目的とした手術が行われることがあります。腫瘍を取り除くことで、重症筋無力症の症状が改善されることが期待されます。


栄養チューブの設置 嚥下困難がある場合、猫が十分に栄養を摂取できるように胃チューブなどの栄養チューブを設置することがあります。これにより、食事の摂取が困難な猫でも必要な栄養を確保できます。


食事のケア 巨大食道症を併発している場合、食事の際に吐き戻しや誤嚥を防ぐため、食器を高い位置に置いたり、フードの形態を工夫するなどの対策が必要です。

対症療法 誤嚥性肺炎を併発している場合には、抗生物質の投与や酸素吸入などの対症療法が行われます。これにより、肺炎の症状を軽減し、呼吸機能を改善します。


継続的なケア

猫の重症筋無力症の治療には、一般的に薬物療法が有効ですが、猫の場合、外科的切除が可能な腫瘍に伴う症例を除いて、長期的な治療とケアが必要になることが多いです。定期的な獣医の診察と適切な家庭でのケアを継続することで、猫の生活の質を向上させることができます。


重症筋無力症の予防方法はある?

猫の重症筋無力症:予防の難しさと早期発見の重要性

重症筋無力症は、神経から筋肉への信号伝達が正常に行われなくなることで筋肉の力が弱まり、運動や摂食に障害をもたらす病気です。猫では比較的まれな疾患ですが、一度発症すると持続的な治療とケアが必要となる場合が多いです。


猫の重症筋無力症そのものの予防は難しい

現時点では、重症筋無力症そのものを予防する確立された方法は存在しません。この病気は神経と筋肉の接合部での信号伝達に異常が生じることで発症します。先天性の場合は遺伝的要因が関与しており、後天性の場合は自己免疫異常や腫瘍に関連して発症します。特に後天性の重症筋無力症では、胸腺腫などの腫瘍が原因となるケースが多く見られます。


定期的な健康診断の重要性

重症筋無力症の予防が難しいため、定期的な健康診断による早期発見が極めて重要です。特に腫瘍に伴って発症するケースが多いため、健康診断を通じて腫瘍の早期発見・早期治療を行うことが推奨されます。腫瘍が見つかった場合、迅速に治療を開始することで、重症筋無力症の発症リスクを低減する可能性があります。


気になる症状が見られたら早期に受診を

筋力の低下や歩行のふらつき、まぶたが垂れて眠そうな表情をしている、嚥下困難やよだれが多いなど、重症筋無力症が疑われる症状が見られた場合は、速やかに動物病院を受診することが重要です。早期診断・早期治療が、病気の進行を遅らせ、猫の生活の質を維持する鍵となります。


合併症の予防

重症筋無力症は、誤嚥性肺炎などの合併症を引き起こすことがあり、これらの合併症を予防することも重要です。嚥下が難しい場合は、食事の形態を工夫し、適切な位置での食事を心がけるなどの対策が必要です。誤嚥性肺炎の兆候が見られた場合には、速やかに獣医師に相談し、適切な治療を受けることが大切です。



猫ちゃんと獣医師

まとめ

猫の重症筋無力症とは?症状と予防は、猫にとってまれな疾患ですが、発症すると継続的なケアが必要になります。予防法は確立されていませんが、定期的な健康診断と早期発見が非常に重要です。特に腫瘍に関連するケースが多いため、早期の腫瘍発見と治療が発症リスクを軽減する助けとなるかもしれません。気になる症状が現れたら、速やかに動物病院を受診し、適切な対応を行うことが大切です。




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