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犬の心筋症について:症状と治療オプション

犬の循環器系、特に心臓に関連する疾患は数多く存在しますが、「心筋症」はその中の一つです。この記事では、心筋症という病気の概要、現れる症状、治療方法、さらには予防策までをわかりやすく説明します。


わんちゃんと獣医師

【犬の心筋症:基礎知識】


犬の心臓病には様々なタイプがありますが、その中でも「心筋症」と呼ばれる病気について詳しくお話ししましょう。心筋症は心臓の筋肉、つまり心筋が正常に機能しなくなることで引き起こされる病気です。心臓が全身に血液を送るポンプの役割を果たせなくなり、それが「心不全」という状態を引き起こします。

獣医療においては、心筋症を主に以下の四つに分類します:拡張型、拡大型、拘束型、および不整脈源性右室心筋症。これらのうち、犬に最も一般的なのは拡張型心筋症ですが、まれに他のタイプも見られます。


【拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy, DCM)】

拡張型心筋症は、心臓の心室が異常に拡張し、心筋が薄く伸びてしまう病態です。この結果、心筋の収縮力が低下し、心臓のポンプ機能が衰えます。犬の心臓が血液を体全体に効率よく送り出すことができなくなり、最終的には心不全を引き起こします。拡張型心筋症は遺伝的な要因が強いとされ、特に大型犬に多く見られますが、中型犬や小型犬でも発症することがあります。治療は症状の管理と心臓の負担を減らすことに重点を置きますが、完治することは難しいです。


【拡大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy, HCM)】

拡大型心筋症は、心筋が異常に厚くなることで心室の内部スペースが狭まり、十分な血液が心室に溜まることができなくなる病態です。これにより、血流が制限され、全身に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなります。犬では比較的まれですが、発症すると重篤な症状を引き起こすことがあります。症状としては、呼吸困難、失神、または突然死が挙げられます。治療は病状の進行を遅らせ、症状を緩和することが目的です。


【拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy, RCM)】

拘束型心筋症は、心室の拡張能力が制限されるために心室に十分な血液が溜まらず、結果として血液の循環が不十分になる病態です。心筋の収縮機能は比較的保たれていますが、拡張機能の障害により心臓が十分に血液を全身に送り出すことができません。犬では非常にまれですが、発症した場合には重篤な状態に至ることがあります。治療は限られており、症状の管理が中心となります。


【不整脈源性右室心筋症(Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy, ARVC)】

不整脈源性右室心筋症は、特に右心室の心筋が脂肪や線維組織に置き換わることで知られています。これにより心室の収縮能力が低下し、不整脈や心不全を引き起こすリスクが高まります。特定の犬種で遺伝的な傾向が認められることが多いです。治療は不整脈の管理と心機能のサポートに重点を置きますが、進行性の病態であるため、完治は困難です。

これらの心筋症のタイプごとに、適切な診断と治療戦略が必要です。ペットの健康に関して心配な点があれば、獣医師に相談することをお勧めします。それぞれの病気には特有の症状や治療法があり、早期発見と適切な治療がペットの健康を守る鍵となります。


【心筋症にかかりやすい犬種は?】

心筋症、特に拡張型心筋症にかかりやすい犬種はいくつかあります。この病気は大型犬によく見られる傾向がありますが、中型犬でも発症することがあります。以下は心筋症にかかりやすい犬種の例です:


  1. ドーベルマン 特に拡張型心筋症がよく見られます。

  2. グレートデーン この犬種も拡張型心筋症の発症が高いです。

  3. アイリッシュウルフハウンド 大型犬で、心筋症の発生率が高いです。

  4. セントバーナード 大型犬種で心筋症が報告されています。

  5. ボクサー - 不整脈源性右室心筋症が特に見られることがあります。

  6. ニューファンドランド 拡張型心筋症にかかりやすいとされています。

  7. コッカースパニエル 比較的小型ですが、心筋症のリスクがあります。


これらの犬種は遺伝的な要因により心筋症になりやすいとされていますが、他の犬種でも発症することがあります。心筋症の早期発見と適切な治療が重要ですので、これらの犬種を飼っている場合は、定期的な健康チェックを心がけ、獣医師と相談しながら適切なケアを行うことが推奨されます。



わんちゃんと獣医師



【犬の心筋症の症状】

犬の心筋症は、心臓の筋肉に起こる問題で、様々な症状を引き起こすことがあります。犬種によって発症しやすさに違いがあるため、愛犬が心筋症にかかりやすい犬種の場合は、定期的に獣医師のチェックを受けることが大切です。今回は、心筋症によってどのような症状が見られるか、そしてその治療法についてわかりやすく説明します。


【心筋症でよく見られる症状】

愛犬の心臓に関連する病気の中でも、心筋症は特に注意が必要です。この病気は心筋に変化が生じることで、さまざまな症状を引き起こし、時には命に関わる事態にもつながります。ここでは、心筋症による主な症状と、それに伴う体の変化について詳しく解説します。


心筋症が進行すると、左心室の機能低下により、僧帽弁の閉鎖不全が起こりがちです。これにより、本来左心房から左心室へスムーズに移動すべき血液が逆流してしまうことがあります。この逆流が原因で、左心房から肺への血液の流れにも滞りが生じ、結果として肺に液体が溜まりやすくなります。この状態を肺水腫といい、肺胞内に液体が溜まることで、呼吸が困難になり、咳や呼吸の速度の増加などの症状が現れます。肺水腫は酸素と二酸化炭素の交換を阻害するため、愛犬が呼吸苦に見舞われる原因となります。


心筋症が進行すると、全身の循環が悪くなり、それによって生じる疲労感から食欲不振に陥ることがあります。特に心臓病が進むと、犬は日常の活動においても疲れやすくなり、その結果、食事への興味を失うことがあります。食欲がないと栄養状態も悪化し、さらに体力が低下してしまうという悪循環に陥ることも少なくありません。


【運動不耐性】

運動不耐性は心筋症の犬によく見られる症状です。わずかな運動で息切れを起こしたり、以前は楽しんでいた散歩を嫌がるようになったりすることがあります。これは心筋症により心臓のポンプ機能が低下し、体への酸素供給が追いつかなくなるためです。心臓は必要以上に速く拍動しようとしますが、それによって逆に効率の良い血液循環ができなくなり、犬はより一層の疲労を感じることになります。


【血栓の形成】 拡大型心筋症では、左心室の機能不全により血液の逆流が生じ、これが原因で左心房に血栓が形成されることがあります。これらの血栓が部分的に壊れてしまうと、それが血流に乗って体の末端、特に重要な臓器へと運ばれ、血管を塞いでしまう恐れがあります。これが原因で急な痛みや臓器機能の障害が起こることがあります。


【突然死】 心筋症による心筋の変性は、心臓の電気的伝導路にも影響を与え、不整脈を引き起こす主要な原因となります。特に重度の不整脈は、心臓のリズムを大きく乱し、最悪の場合、心停止を引き起こして突然死に至ることがあります。これは心筋症が非常に進行した状態で起こりやすく、注意深い医療管理が求められます。


【心筋症の治療法】

治療では、主に心臓の負担を軽減するために心拍数をコントロールする薬剤を使用します。また、不整脈が見られる場合には、それを正常化するための抗不整脈薬が処方されることがあります。うっ血性心不全の症状が見られる場合には、利尿剤を用いて余分な水分を体外に排出し、血圧の調整薬を使って血流のスムーズな循環を助ける治療が行われます。これにより、愛犬の生活の質を維持しつつ、症状の進行を遅らせることが目指されます。


通院と治療費について

心筋症の治療には継続的な通院が必要で、治療費もかかります。年間での平均的な通院回数は5回ほどで、1回の治療費は約11,491円とされています。万が一のためにも、ペット保険の加入を考えておくと安心です。


心筋症は、愛犬の健康を脅かす重大な病気ですが、適切なケアと治療で生活の質を保つことが可能です。愛犬の健康状態に異変を感じたら、早めに獣医師に相談しましょう。




わんちゃんと獣医師

犬の心筋症の予防法

犬の心筋症は、一部が遺伝的要因によるものであり、完全に予防することは難しい場合もありますが、いくつかの対策を講じることでリスクを低減し、症状の早期発見につながる可能性があります。以下に、心筋症の予防と管理に役立つ方法をいくつか紹介します。


  • 遺伝的スクリーニング: 特定の犬種は心筋症を発症しやすいとされています。繁殖前に遺伝的テストを行い、遺伝的なリスクが高い犬を繁殖プログラムから除外することが推奨されます。

  • 購入時の情報収集: 犬を購入する際には、ブリーダーからその犬種の健康状態や遺伝的リスクについて十分な情報を得ることが重要です。

  • 獣医師による定期検査: 年に一度の健康診断を受けることで、心筋症をはじめとする心疾患の初期段階を発見することができます。特に心筋症にかかりやすい犬種では、より頻繁なチェックが必要です。

  • 聴診と心電図: 定期的な聴診や心電図検査を通じて、心臓の異常を早期に発見することが可能です。異常が見つかった場合は、超音波検査などでさらに詳細な診断を行うことがあります。

  • バランスの取れた食事: 心臓の健康をサポートするために、タウリンやオメガ3脂肪酸などを含むバランスの取れた食事を提供することが重要です。

  • 適切な体重の維持: 肥満は心臓に余計な負担をかけるため、適切な体重管理が心臓疾患の予防につながります。

  • 適度な運動: 過度な運動は心臓に負担をかけることがありますが、適度な運動は心臓の健康を維持するのに役立ちます。犬の年齢や健康状態に合わせた運動を心がけてください。

  • ストレスの管理: 高いストレスも心臓に悪影響を及ぼすため、犬が快適で安心できる環境を提供することが大切です。


これらの予防策は、心筋症そのものを完全に防ぐものではありませんが、愛犬の心臓の健康を維持し、症状の発生を遅らせる、または軽減するのに役立つことが期待できます。また、早期発見と適切な管理が症状の進行を緩和し、愛犬の生活の質を向上させる鍵となります。



わんちゃんと飼い主


まとめ

犬の心筋症は全体の心臓疾患の中でも比較的発生頻度は低いですが、特定の犬種では発症するリスクが高くなっています。もしも心筋症が多発する犬種と一緒に暮らしている場合、普段から愛犬の様子を注意深く観察し、何かいつもと違うサインを感じたら、迷わず獣医師に相談することが大切です。


心筋症を発症してしまうと、呼吸困難や食欲不振などの日常生活に影響を及ぼす症状が現れることがあります。これらの症状は、残念ながら根治することは難しいですが、適切なケアと管理によって生活の質を保つことは可能です。心筋症について正確に理解し、無理な負担をかけずに愛犬との生活を楽しむための対応が求められます。何か心配な変化が見られたら、すぐにかかりつけの獣医師にご相諤ください。それによって、愛犬がより快適に過ごせるようサポートしましょう。

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